ナショナルトラスト

生きものの生息する土地を取得し、その自然環境を守る
ナショナルトラストとは、1895年にイギリスの市民3人によって「国民のために土地を共有する団体」として創設され、その活動がはじまりました。「ピーター・ラビット」の作者ビアトリクス・ポターも舞台となった湖水地方を、絵本の収益などをもとにナショナルトラストで守っています。日本では、鎌倉の鶴岡八幡宮の裏山の開発危機が、この活動がはじまるきっかけとなりました。

絶滅してしまう、その前に

すみかとなる自然環境が失われていくことで、生きものたちは次々と姿を消していきます。遥か昔に大陸から渡り、ひっそりと生き続けている絶滅危惧種のツシマヤマネコとアマミノクロウサギは、どちらも島嶼地域にしか生息しておらず、その限られた土地の開発は絶滅を意味します。また、世界的にも知られている「北限のブナ林」は、秋には1ヘクタールあたり200〜500万個もの実をつけ、多くの生きものを育む貴重な環境です。生きものや、その生息環境を守っていくためには、土地を取得することが、現状の日本では最も確実性のある方法です。

以下でご紹介する3つの土地に対し、寄付または三井住友信託銀行の社会貢献寄付信託、特定寄附信託という方法で協力をお願いしています。寄付信託については、三井住友信託銀行のサイトをご覧ください。

三井住友信託銀行がナショナル・トラスト活動を応援
ナショナル・トラスト活動の趣旨に賛同した住友信託銀行が、平成22年7月16日から12月30日の期間中、「グリーンバランスファンド(愛称:グリーングリーン)」の販売件数に応じて、本活動に寄付するナショナル・トラスト活動応援企画を実施しました。平成23年6月9日に、住友信託銀行にて、企画を通じた寄付金200万円の贈呈式が行われました。住友信託銀行の大久保哲夫取締役から寄付金の目録が贈呈された後、日本生態系協会の池谷奉文会長から感謝状をお渡ししました。いただいた寄付金は、上記3種の生息地の購入資金の一部として活用させていただきました。また当協会は平成23年4月に取扱が開始された「社会貢献寄付信託」、平成24年6月に取扱が開始された「特定寄附信託」の寄付先となっています。

対象種・取得地の選定

対象種は、その重要性、希少性、保全の緊急性などを考慮し選定し、取得地は、対象種の生息に適した地で、地権者の了解が得られている土地としています。

トラスト地の保全・管理

取得後は、地域の活動団体や自治体と連携しながら、種の生息に適した環境が守られるよう保全や管理を行います。

土地取得の資金

活動に賛同いただいた個人や企業からの寄付で、土地購入基金を積み立て、各目標額に達し次第購入します。

鹿児島県 奄美大島

飛び跳ねない短い耳の生きた化石、
アマミノクロウサギ。

アマミノクロウサギの生態

丸くて黒いユニークな姿は、ウサギの中でも最も原始的な形態を残しています。南西諸島の奄美大島と徳之島で独自の生態を維持し、奇跡的に生き延びていますが、現在、奄美大島で3,000頭、徳之島では200頭前後と推定されています。群れはつくらず、一日の大半を森の中に掘った巣穴で過ごし、夜になると林や草原で葉や実などを食べます。

生息の危機

夜間の採餌では、ノイヌやノネコ、マングースに捕まったり、交通事故などで死亡した個体が多く確認されています。10年間で304頭の死亡個体が確認され、2009年に「アマミノクロウサギ 非常事態宣言」が発令されました。そして最も問題とされているのは、自然林の伐採、道路・宅地・ゴルフ場等など、生息地の開発です。1995年には日本初、アマミノクロウサギやルリカケスなどの生きものたちが原告として、ゴルフ場開発に対する開発許可の取消を求める裁判が行われました。判決は却下となりましたが、「自然が人間のために存在するという考え方を推し進めていってよいのかどうかについては、改めて検討すべき重要な課題」とあり、問題提起となる裁判となりました。特別天然記念物や法律による保護指定はあるものの、生息地が失われる大規模な開発は今も行われています。

取得日
2010年9月2日
所在地
鹿児島県大島郡大和村大字恩勝字高桁
地目
山林等
面積
13,911㎡
長崎県 対馬

鋭さと可愛らしさをあわせもつ
山の中をかけめぐる、ツシマヤマネコ。

ツシマヤマネコの生態

胴長短足のぽっちゃりした体と、太く長いしっぽが親しみを感じさせるツシマヤマネコ。世界で長崎県対馬市のみに生息し、その数はわずか80~120頭と推測されている、まさに絶滅寸前の生き物です。

生息の危機

1970年代までは、島の全域で見られていたツシマヤマネコは、生息地の減少や、交通事故や狩猟用トラバサミ、ノイヌ・ノネコ・イノシシ等による捕食、感染症などにより、現在は4分の1まで数が減っています。かつて大陸と繋がっていた対馬には、ツシマテン、ツシマサンショウウオ、ツシマスベトカゲなどの固有種が多数生息し独特の生態系があります。そしてその頂点にたつのがツシマヤマネコです。この生息地の保全は、他の多くの貴重な生きものを守っていくことにもつながりますが、島の森林のうち9割は私有地で、常に開発の危機が迫っています。

取得日
2011年3月10日
所在地
長崎県対馬市上方県佐護
地目
山林 3ヵ所
面積
6,577㎡
北海道 黒松内町

地球温暖化の指標、
黄葉が輝く北限のブナ林。

黒松内町の境目

九州から日本列島を横断するブナの姿は黒松内を北限とし、これより北は北海道ならではの針葉樹林が広がり始めます。ブナの生育条件から考えると、黒松内より北側で生息してもおかしくないのですが、なぜかこの地でぴたりと消えます。そのことは、植物学、林学、地理学、地質学など多くの研究者を駆り立ててきました。

ブナ林の危機

氷河期以降北へ分布を広げてきたブナ林が黒松内町に到達してから約700年、秋には木の実をたくさんつけて、ウサギやリス、ネズミなどの生きものを育み、落ち葉や枝が土を豊かにしてきました。森は豊かな水をたっぷりと貯え、川へと流れ出し田畑や人の生活を潤します。 町内にある歌才ブナ林は、その学術的な重要性から昭和3年に国の天然記念物へと指定されていますが、太平洋戦争末期には物資難のためプロペラの材料へ、昭和29年には町の財政危機から指定解除へと、二度の伐採の危機に直面しました。その度に研究者や地元住民の働きにより守られてきました。近年では、ウッドチップを目的とした伐採や土地の売買が行われ、突然ぽっかり林がなくなるということが度々起きています。

取得日
2012年1月26日
所在地
北海道寿都郡黒松内町字西沢
地目
山林
面積
30,787㎡